胸痛があっても、心電図や心臓超音波検査など心臓に対する検査を行っても、異常が無いと診断されることがあります。このような胸痛は心臓に原因がない非心臓性胸痛と呼ばれています。非心臓性胸痛の原因は様々で、肺の病気や肋間神経痛、膵炎なども原因として知られています。
心臓・血管の病気による胸痛
心臓や血管の病気が原因で胸痛を感じる場合は、早急に適切な対応しなければなりません。放っておくと生死にかかわるため、すみやかに受診することが必要です。すぐに救急車を呼びましょう。
胸痛を引き起こす心臓や血管の病気には以下のようなものが挙げられます。
狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患
狭心症や心筋梗塞とは、わかりやすくいうと心臓の血管が詰まる病気です。狭心症になると、身体を動かしているときに胸の中心〜左あたりに締め付けられるような苦しさや痛み、圧迫感を覚えます。胸以外に、首や肩などに広がるような痛み(放散痛)を感じたり、上腹部に痛みが出たりするケースもあります。動いているときだけでなく、安静にしているときや、就寝中に痛みを感じることもあります。ただし、これらの痛みは数分で消えるというのが特徴です。
痛みが激しく、痛みを感じる時間が長くなった、痛みだけでなく冷や汗が出たり、呼吸困難になったりしたという場合は心筋梗塞を引き起こしている可能性が考えられます。
大動脈解離
大動脈解離とは血管が裂ける病気で、動脈硬化が原因であることが多いです。突然、胸に引き裂かれるような激しい痛みを感じ、やがて広範囲に痛みを感じるようになっていきます。血流の流れが悪くなる部分を中心に痛みや症状が表れ、胸の痛みのほか、意識障害、失神、腹痛を覚えることもあります。
肺・胸膜の病気による胸痛
肺や胸膜の病気が胸の痛みを引き起こすことはあるものの、そもそも肺には痛みの神経がありません。よって、この場合の胸の痛みは、肺のみならず、痛みの神経がある胸膜にかかわりの深い病気によって発生するといえます。
胸膜炎・膿胸
細菌などの感染症が原因で胸膜が炎症を起こし、胸の中に膿がたまってしまう病気です。胸の痛みのほか、発熱や悪寒があることも多いです。鈍い胸の痛みを感じ、呼吸によって痛みの程度などが変化する傾向があります。胸膜炎の中でも、悪性疾患に伴うがん性胸膜炎の場合は発熱などがなく、胸の痛みだけが症状としてあらわれます。
気胸
肺がパンクする病気で、胸の痛みの原因となっていることが多い病気です。突然、胸の痛みや息苦しさを感じるのが特徴で、深呼吸をするたびに痛みを強く、長く感じるようになります。
特にやせ型で若い男性がかかることが多いといわれていますが、肺気腫やブラ(気腫性のう胞)などの呼吸器の病気を持っている中高年もかかりやすい傾向があります。
消化器の病気
心臓や血管の病気が原因で起こる胸痛以外では、食道の病気によって胸痛が引き起こされることが多いです。
逆流性食道炎・胃食道逆流症
逆流性食道炎と胃食道逆流症は、いずれも胸の痛みなどを引き起こす食道の病気で、ほぼ同じ意味で使われることがほとんどです。
厳密にいうと、胃食道逆流症とは胃と食道のつなぎ目にある筋肉の働きの低下、胃酸が多く出てしまう、食道の知覚過敏などが起こり、強い酸性の胃液や胃で消化される途中の食物が、食道に逆流してとどまっている状態を指します。それによって食道が炎症を起こし、胸やけや胸の痛みなどを引き起こすことを逆流性食道炎といいます。
食道裂孔ヘルニアや食道アカラシアを含む食道運動機能障害
胸の痛みが食道裂孔ヘルニアなどの食道の病気で起こっている場合、痛みは食後または就寝中や朝方に起こることがほとんどです。特に食道裂孔ヘルニアで胸の痛みが起こる場合、ほとんどが夜間で、就寝中に突然痛みを感じるほか、明け方に口に苦みを感じたり、普段よりもゲップが増えたりすることもあります。
この場合、血圧や意識状態に負担がかかることはありません。ただし、中には食道の病気が原因であっても、胸の痛みが強いことから心臓発作を疑って、救急外来を受診するケースもあります。
原因不明の胸の痛みで受診した場合、まずは心電図やレントゲン検査などを行い、心臓の病気が隠れていないかをチェックします。結果、異常がなければ内視鏡検査が行われ、逆流性食道炎だと判明することもあります。
内視鏡検査で粘膜の炎症がなければ、軽度の食道裂孔ヘルニアと診断される例がほとんどです。ただし、食道アカラシアなどの食道運動機能障害の場合は内視鏡では診断が難しく、発見できないこともあります。
食道運動機能障害を見つけるためには、まずは造影剤による食道造影を行い、診断確定の際に食道内圧測定と呼ばれる特殊な検査を行わなければなりません。
食道運動機能障害の原因は現状不明ですが、食道の運動(蠕動)に異常が起きていることで、胸の痛みが引き起こされると考えられています。
神経・筋肉・骨の病気による胸痛
肋骨骨折
ケガや激しい運動、激しいせきなどをした際に、肋骨が折れたり、ひびが入ったりしたことから、胸の痛みを感じることがあります。安静にしているときは鈍い痛みを、身体を動かしたり、深呼吸やせきをしたり、胸部を押したりしたときに強い痛みを感じるのが特徴です。
肋間神経痛・帯状疱疹
肋間神経痛とは、肋骨に沿って走行する肋間神経が何らかの原因で異常が起き、胸などに突発的な痛みを感じる病気です。胸の片側に強い痛みを感じ、深呼吸やせき、体勢を変えた際に痛みが強くなることもあります。
肋間神経痛が、帯状疱疹によって引き起こされることがあります。帯状疱疹は、肋間に沿うようにして潜む水ぼうそうのウイルスが原因です。胸などの身体の一部に鋭く激しい痛みを感じ、水ぶくれのある発疹があらわれます。
他に、側弯症や脊椎の神経の圧迫が胸の痛みの原因となっていることもあります。
悪性腫瘍
肺から発生するがん、または他の臓器から発生するがんの腫瘍が胸壁まで広がった場合、胸周辺に強い痛みが継続的にあらわれるようになります。
そのほか病気以外の原因による胸痛
ストレスや緊張で胸が痛くなる
検査で心臓に異常がないのにもかかわらず、患者さんが胸の痛みを訴えることがあります。原因はストレスや不安・緊張などからくるものだと考えられています。
このような病態を、
などと呼びます。
ストレス・不安・緊張によって胸が痛いと感じる要因には、以下の3つがあると考えられます。
自律神経の乱れによる胸の痛み
全身の器官を調節する自律神経のバランスが乱れ、胸のあたりや心臓が痛いと感じることがあります。
自律神経は、交感神経と副交感神経で構成されています。交感神経とは、心拍増加・血圧上昇に深くかかわりがあります。一方の副交感神経は、心拍・血圧を下げて心身をリラックスさせる役割を持っています。
ストレスを感じると交感神経が活発化しやすくなり、本来は副交感神経が働くような状況でも、交感神経が働くようになってしまいます。こうして交感神経がどんどん活性化すると、心臓が通常よりも活発に働くようになります。そうなった場合、動悸や息切れなどが起こりやすい状態が続き、人によっては「心臓が痛い」と感じることも珍しくありません。
いったん心臓の痛みを感じてしまうと、不安感からストレスが増加し、ますます交感神経が率先してはたらくようになります。ゆえに、心臓神経症の悪化につながるという悪循環を招くこともあり得ます。
交感神経が活性化しすぎて、心臓の負担が大きくなると、不整脈などを引き起こす可能性があるので注意が必要です。
血行不良による胸の痛み
ストレスなどが原因で心臓に十分な血液が行き渡らず血行不良が続くと、胸周辺に痛みを感じることがあります。
本来、人間がストレスを感じたときは、心拍数が上昇して血流が良くなります。しかし、動脈硬化や血栓があると、血管内部が狭くなっているので血流スピードが落ちてしまい、心拍数が上がっても血流が良くならないという状態になります。
要は、心臓から送り出される血液量は増えているにもかかわらず、心臓に戻ってくる血液量が極端に少なくなってしまうのです。こうなると、心臓が血液不足になり、胸の辺りに強い痛みを感じるようになります。
パニック障害による胸の痛み
パニック障害になると、発作的に激しい心臓や胸周辺の痛み、動機や息切れに襲われます。あまりの発作の激しさから「このまま死んでしまうかもしれない」と感じることもよくあります。例えば電車に乗っているときに発作が起こった場合は、「また発作が起きるかもしれない」という不安から電車に乗れなくなったりすることもあります。
パニック障害の原因は今のところはっきりしていませんが、ストレスが影響していると考えられています。