細菌やウイルスなどの異物に限らず、煙やホコリやチリなどを吸い込めば咳や痰が出ます。そのため痰や咳が出ること自体が悪いというわけではありません。
しかし、痰をともなう湿った咳(湿性咳嗽:しっせいがいそう)は、気管支や肺の疾患が隠れている場合があるため注意が必要です。
とくに痰の量が多い場合や咳が長引いている場合は、一度、呼吸器内科を受診して検査をしましょう。
気管支喘息
気道が慢性的な炎症を起こし、その炎症によって咳症状が繰り返し起こる病気です。炎症が続くと気道は過敏状態となり、わずかな刺激でも気道が狭くなっていきます。(気道狭窄)
気道が収縮して、乾いた咳や喘鳴(呼吸時にヒューヒューゼーゼーと音がする)や呼吸困難(息切れ)などの症状が現れます。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
代表的な呼吸器の病気であるCOPDは、肺の慢性的な炎症性疾患です。タバコ煙の有害物質などが原因となって生じることが多く、慢性的な咳・痰、呼吸困難(息切れ)、喘鳴など、喘息によく似た症状が出ることもあります。
COPDは徐々に進行し、全身に炎症が及ぶことから、やがて全身機能が低下していきます。全身の合併症として骨格筋機能障害、心・血管疾患、栄養障害、精神疾患、骨粗鬆症、消化器疾患などを発症し、やがては要介護状態に至ることも少なくありません。
肺結核
結核菌による感染症です。2週間以上、空咳が続いている場合は肺結核が疑われます。
結核菌は空気感染しますが、結核菌が漂う空間にいて菌にさらされても、感染・発症する方は約30%程度と考えられており、そこまで多くはありません。また感染しても大半は自分の免疫機能によって自然治癒します。
一方、ごく一部の方は半年から2年ほど経過したのち、発熱や咳などの症状を引き起こします。(一次結核症)
また自然治癒したあと、稀に再発して、発熱や咳、全身倦怠感、ひどい寝汗(盗汗)などの症状を引き起こすこともあります。これはわずかに眠っていた菌が、数年から数十年後に活動をはじめて発症すると考えられています。(二次感染)
気管支拡張症
気管支拡張症は何らかの原因によって気管支が非可逆的(元に戻らない)に拡張してしまう病気です。気管支の拡張により細菌やカビが増殖し、炎症を引き起こすことがあります。
気管支の拡張部分では、炎症によって血管が増えるため、血痰や喀血(咳血)の症状が現れることがあります。また感染が繰り返され、病状が進行する可能性があります。
気管支拡張症の原因は、喫煙、気道の損傷、遺伝的な要因などが考えられます。
急性咽頭炎
細菌やウイルス、アレルギー、喫煙などが原因で、のど(喉頭)に急性の炎症が生じる病態です。喉頭炎には、声のかれやかすれ、長引く咳、喉の痛み、発熱などの症状が現れます。さらに、喉頭は空気の通り道でもあるため、炎症による喉頭の腫れが強くなると呼吸が困難になる場合もあります。
誤嚥性肺炎
ものを飲み込むことを嚥下(えんげ)、嚥下した食べ物や唾液が食道ではなく誤って気道に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)といいます。
誤嚥性肺炎は、誤嚥によって口腔内の常在菌が気道から肺に入ってしまい、肺炎を起こす病気です。発熱や咳、痰など肺炎の典型的な症状が見られない場合もあり、なんとなく元気がない、食欲がない、といった状態になることも多いです。
とくに要介護状態の高齢者ではこの誤嚥性肺炎を繰り返しやすく、時には死亡の原因になることもあります。
肺がん
肺がんは肺にできる悪性腫瘍です。肺から発生するがん(原発性がん)と、ほかの部位にできたがんが肺に転移したもの(転移性肺がん)に分類されます。一般的に「肺がん」とよばれるのは、原発性肺がんです。最大の危険因子は喫煙です。
肺がんの初期症状には、空咳(乾いた咳)、痰・血痰、喘鳴などがあげられます。一方で、倦怠感や胸痛、体重減少などの症状を認めるケースや無症状の場合も多く、発見されたときにはすでに病態が進行しているケースも少なくありません。