乳がんの原因にはエストロゲンという女性ホルモンがかかわっています。長年、体内のエストロゲンレベルが高い状態にあると、乳がんのリスクも高まるといわれています。
月経期間はエストロゲンが大量に分泌され、乳腺にも影響します。したがって月経回数が多い人、具体的には「初潮が早い」「閉経が遅い」「月経周期が短い」「出産経験がない」「初産が高齢」という人ほど、リスクが高まる傾向があります。また、子宮体がんや卵巣がんにかかった経験がある人、ホルモン補充療法を長期にわたって受けている人も、治療の際にエストロゲンを補充しているのでリスクが高いといえます。
妊娠・出産経験のある女性は、経験がない女性に比べて乳がんのリスクが低く、また授乳もリスク低下につながることがわかっています。一方で、近年のライフスタイルの変化により、晩婚化で高齢出産が増えたり、結婚をしないという選択をする女性が増えたりしていることも、乳がんの発症例の増加にかかわっているといわれています。
そのほか、乳がんを引き起こす原因として生活習慣も挙げられます。毎日、ビールやワインを2杯以上飲む人、すでに閉経していて肥満の人は乳がんのリスクが高まります。閉経後、運動する習慣がある人はない人に比べてリスクが低いともいわれています。
また、乳がんの中には遺伝子が乳がんにかかりやすい状態に変化した「遺伝性乳がん」、親族に複数の乳がん患者がいる「家族性乳がん」もあります。乳がんの患者さんの5〜10%程度が遺伝性だといわれていますが、この遺伝子を持っていても必ず乳がんになるというわけではありません。
乳がんの検査と診断
乳がんの検査では、基本的にマンモグラフィというX線撮影による画像診断装置を使います。X線を使うため、妊娠中は受けられません。
検査では2枚の透明な板で乳房を上下・左右から挟んで圧迫し、薄く伸ばした状態で撮影します。このとき、痛みを感じることもありますが、乳房を薄く伸ばすことで放射線量が少なくて済むだけでなく、正確に診断することにもつながります。もし我慢できないほどの痛みがある場合は圧迫を少しゆるめることも可能です。
マンモグラフィではしこりとして確認できない石灰化したがんまで見つけることができるため、早期発見・早期治療には欠かせない検査です。この検査を受けることで、死亡率減少の効果があると証明されています。
ただし、経過観察していれば問題ない良性腫瘍なども、乳がんと同じように白く写ってしまうため、マンモグラフィだけでは良性・悪性の確定ができません。また、若くて乳腺が発達している場合や、乳房が小さく乳腺が密集している場合は判断が難しい傾向があります。
他に、超音波検査を行う場合もあり、こちらは妊娠中でも受けることができます。検査ではベッドにあおむけになり、腕を上げた状態でプローブを乳房に当てながら、さまざまな方向にすべらせて画像を映し出していきます。マンモグラフィのように石灰化したがんを見つけることはできませんが、数mm程度の小さなしこりを見つけるのに有効で、しこりの濃淡や形、境界の鮮明さをもとに良性腫瘍と乳がんを見分けることも可能です。
マンモグラフィや超音波検査でしこりや石灰化が見つかった場合、乳房から細胞や組織を採取し、がん細胞を顕微鏡で確認します。このとき、細い注射針で細胞を吸引する「穿刺吸引細胞診」と、やや太い針で組織を取り出す「組織診(針生検)」のいずれかの方法で行います。
穿刺吸引細胞診では、超音波でがんの疑いがある部分を確認しながら注射針を指して細胞を吸引します。痛みが少ないので麻酔は使わず、10分程度で済みます。しこりがある場合は有効な方法ですが、採取できる細胞の量が少ないことから「悪性の疑い」「鑑別困難」などの判定となる可能性もあります。そのため、確定診断では組織診と組み合わせて行うこともあります。
組織診では使う針が太めなので、局所麻酔を施します。使用する針や採取する方法によってひとつの細胞を採取する「コア生検」、複数の組織を採取する「マンモトーム生検」などの種類があり、いずれも細胞診よりも傷が大きくなりますが、それでも数mm程度です。一度にたくさんの細胞を採取できるため、良性・悪性の判定のほか、がんの性質も確認できるため、治療方針を決めるのに役立ちます。
その後、乳がんと診断された場合は治療方針を決めるための検査として、MRIやCTなどによる画像診断を行います。
MRIは、がんの広がり具合やリンパ節への転移の有無を調べることができ、できるだけ乳房を残して治療ができるかどうかや、切除する場合はどの程度切除する必要があるのかなどを判断する上でも重要です。MRIでは被ばくのリスクはありませんが、心臓ペースメーカーやインプラントのボルトなどの金属が体内に埋め込まれている場合、磁気の影響で金属が振動して損傷する可能性があるため、該当する患者さんは受けられないことがあります。
CTは、MRIと同じくがんの広がり具合を確認することができます。ヨード造影剤を注射して撮影する「造影CT」と、らせん状に回転しながら撮影する「ヘリカルCT」があります。ヘリカルCTは断層面を1枚ずつX線で撮影する従来のCTに比べて短時間で広範囲を撮影できるだけでなく、被ばく線量が少なくて済み、三次元画像による診断が可能なので小さながんでも見つけることができます。