パニック発作が起こるパニック障害とは
わたしたちの体は恐怖や興奮を感じると、その対象と戦う・もしくは逃げるために、アドレナリンというホルモンを産生します。パニック発作は、その恐怖や興奮によって引き起こされる体の正常なはたらきが過剰に反応してしまう状態です。
パニック発作では、頭に浮かんだありふれた考えやイメージが脳の中枢を刺激し、アドレナリンが体内を駆け巡ります。その結果、発汗や心拍数の増加、息苦しさなど症状が起こります。
発作は20分〜30分ほど続き、「心臓発作が起こりそうだ」「このまま死ぬのではないか」など恐怖に怯え、さらに強い恐れを感じるようになります。その恐怖感が脳の中枢をさらに刺激し、脅威に反応することでアドレナリンの産生がさらに加速します。そうして、症状が悪化していきます。
繰り返しパニック発作を経験すると、今度は次のパニック発作を恐れるあまり、「恐怖に対する恐怖」を常に感じることとなります。これを予期不安といいます。
パニック障害(パニック症)は、突然激しい発作症状に襲われる病態です。
この発作は「パニック発作」と、引きつづく予期不安という症状が起こります。
パニック障害は男性よりも女性に多い(約2.5倍)というデータがあります。
パニック発作とは?特徴的な症状
これらの感情が突然現れて、短時間(数分から数十分)で消失する発作を「パニック発作」といいます。
なにも危険がないのに「このまま死ぬのではないか」など恐怖に怯え、
など、身体症状も現れます。
パニック発作にはその誘因(引き金となるもの)があるかどうかで、いくつかのタイプにわかれます。
パニック障害で起こるパニック発作は時や場所を選ばず、不特定な状況で起こるという特徴があります。
パニック発作の発症のきっかけ・初期症状
何となく漠然とした不安を感じ、居場いる場所に圧迫感を覚えることがあります。
また、軽い症状として動悸がみられ、次第に息苦しさを感じます。
これらの何気ない軽い症状に対して、「これからもっと症状が強くなるのではないか」という不安感が増していきます。
以上のように、何気ない軽い症状から、予期不安を感じて発展していくのがパニック障害の根本的な症状といえます。
また初期段階では、身体症状から何らかの病気を疑い医療機関を受診しても、内科系の診察では「特に異常なし」と診断結果が出る場合も多いです。これはパニック障害の初期症状は、時間の経過とともに消えることが多いためです。そのため、パニック障害になると症状を他人に理解してもらえないことで悩む人も多く、その不安がさらにパニック発作を誘発してしまいます。
パニック障害の症状
パニック障害の症状は、「パニック発作」という「身体症状」、そして「予期不安」という「こころの症状」に分けられます。
身体症状:パニック発作
特別な理由やきっかけもなく、突然下記のような症状が繰り返し現れるようになります。
- 動悸や心拍数の増加
- 発汗
- 体の震え
- 息切れや息苦しさ
- 息が詰まるような感覚(窒息感)
- 胸痛や胸の不快感
- 吐き気や便秘(特に子どもの場合)
- めまいや気が遠くなる感覚
- 寒気やほてり
- しびれやうずきなどの知覚異常
息が詰まるような感覚(窒息感)、胸痛や胸の不快感など、心筋梗塞などの症状に似ているものも多いため、それらの病気を疑ってとっさに救急車を呼ぶ方もいらっしゃいます。
こころの症状:予期不安
「予期不安」とは、「パニック発作がまた起こるのではないか」という不安から、発作のない状態でも大きな不安にさいなまれる症状です。
人によって発作が起きやすくなる状況は違いますが、いったん発作を起こすと、発作を繰り返すことに不安や恐怖を感じるようになります。これを「予期不安」といいます。
また、以前発作が起きた場所や状況を避けるようになります。これを「回避行動」といいます。そして、人混みや公共交通機関の利用を避けるようになる「広場恐怖」へと発展します。
中には自分の感情をコントロールすることが難しくなり、「今にも死にそう」といった強い不安や恐怖に襲われるようになることもあります。このような状態がエスカレートした場合、うつ病などの精神疾患を併発することも多いといわれています。
パニック障害の原因
パニック障害の原因は、まだはっきりとわかっていないのが現状です。
もともとパニックとは、死などの危険を察知して警告を発信する役割を持っており、生き延びるための正常な反応です。
例えば、災害などで命の危機に直面した際、
- 脈が早くなる
- 汗をかく
- 血の気がひく
- 手足が震える
- 大声で叫びたくなる
- 逃げだしたくなる など
など
以上のような状態がパニックに該当します。
このようにパニックになるのは、もともと人間に備わっているプログラムのひとつでもありますが、パニック障害はこのプログラムが誤作動している状態ともいえます。
また、発症には脳機能(脳と脳内の神経伝達物質)の異常がかかわっているという見方もあります。人間の脳細胞は、さまざまな情報や命令を伝えるための物質(脳と脳内の神経伝達物質)が分泌されていますが、これらの働きが乱れたことで、不安や恐怖を過剰に伝えてしまうことがあり、パニック発作を引き起こすことがあります。
パニック発作の引き金になりやすい要因としては、肉体的・精神的な不調が挙げられます。過労や睡眠不足、事故やケガのほか、環境の変化などは心身に大きな負担をかけます。
実際、パニック障害を患っている方のほとんどは、発症する数ヵ月前に大きなストレスを感じる出来事があったというケースが多いようです。
パニック障害の診断
まずは問診を行い、パニック発作が起きた状況や発作の症状を把握します。
発症が一度かぎりでも、再発への不安があるかどうか、発作を引き起こす可能性がある状況を回避する行動があるかどうか、それがひと月以上続いているかどうかなどを確認します。
診断の際には、似た症状を引き起こす別の身体的・精神的な病気が隠れていないかどうかの検査も必要となります。
パニック障害と同じような症状を引き起こす病気には、心血管系の病気、呼吸器の病気、低血糖、薬物中毒、てんかんなどがあるため、それが隠れていないかを確かめるために尿検査、血液検査、心電図検査、脳波検査などの検査を行います。
パニック障害の診断は、米国精神医学会やWHO(世界保健機関)で定められた『診断・統計マニュアル(DSM-5)』に照らし合わせながらチェックします。
パニック障害の診断基準
パニック障害は、米国精神医学会が記した精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)を用いて診断します。具体的な診断基準は以下の通りです。
- パニック発作が繰り返し生じる
- パニック発作によって、その後ひと月以上「また発作が出てしまうのではないか」という不安を抱えている、または発作が起こりそうな行動を回避したり変更したりしている
- パニック発作の原因が、何らかの薬物や病気によるものではない
- パニック発作の原因が、社交不安症や強迫症など、ほかの精神疾患によって説明できない
パニック障害の治し方
パニック障害は、主に薬物療法と非薬物療法を併用して治療を進めていきます。
薬物療法
抗うつ薬(主にSSRI)や抗不安薬の一種であるベンゾジアゼピン系薬剤を服用して、パニック発作の抑制と予期不安や広場恐怖の軽減を目指します。
服用すると、過剰な不安感を軽減する作用があります。治療の効果はもちろん、依存性や習慣性、耐性に注意しながら、必要に応じて量の増減や薬の変更を行います。
薬物療法はできるかぎり短期間かつ必要最低限で行うことが望ましく、服用のタイミングや調整についても主治医と話し合っておく必要があります。
非薬物療法
本人の不安に対する姿勢を変化させるために、薬を使わない非薬物療法も行います。積極的に実施することで再発しにくくなるといわれているため、治療する上で非常に重要とされています。
主な非薬物療法としては、動悸に対する耐性をつける効果が期待できる有酸素運動、不安をコントロールするための「自立訓練法」というリラクゼーション法があります。
また、病気について正しく理解するための心理教育や、不安受容の姿勢をやしなう森田療法、不安をコントロールできるようになるための認知行動療法なども用いられます。
治療中は、患者さんの家族など周囲の人々が経過をゆっくりと見守り、協力的にサポートしてくれるようになると、さらなる効果が期待できます。
パニック障害が治るきっかけ
パニック発作によって体の状態が気になり、何らかの病気を疑って内科を受診されるケースが多いです。その受診がきっかけととなり、適切な治療を受けることで、症状は改善に向かっていきます。
一度目のパニック発作が起こってから2~3ヵ月以内で、まだ予期不安や広場恐怖が強くなっていないうちに適切な治療をすれば回復しやすいといわれています。
一方、早期に治療せず、放っておいてしまうと悪化する可能性があるため、心あたりがある場合は早めに精神科や心療内科を受診しましょう。