最終更新日:2024.09.04 | 投稿日:2023.07.30

腎盂腎炎(じんうじんえん)とは?前触れとなる症状と原因を解説

腎盂腎炎(じんうじんえん)とは?前触れとなる症状と原因を解説

腎盂腎炎(じんうじんえん)とは、腎臓の腎盂(じんう)という部分にばい菌が増殖して炎症が起こる病気です。

20〜30歳代の若い女性に多く発症する傾向があり「腎盂腎炎をネットで調べると『やばい病気』と書かれていたから不安になって…」という患者さんも多くいらっしゃいます。

本記事では、腎臓の診察をしている医師に監修していただき、腎盂に炎症が起こる腎盂腎炎(じんうじんえん)という病気の前触れとなる症状と原因、女性に多く発症する理由を解説しています。

腎盂腎炎(読み方:じんうじんえん)とは

腎盂腎炎(読み方:じんうじんえん)腎臓は血液中の不純物をろ過して尿を生成し、体外に排出する役割を担っています。

腎盂腎炎(じんうじんえん)とは、尿道から侵入した細菌によって、腎臓にある腎盂(じんう)という部分に炎症が起こる病気です。このように尿路に細菌が住みついて増殖し炎症を起こす病態を「尿路感染症」といいます。

尿路感染症は感染が起こる場所によってその病名が異なり、腎盂に炎症がみられると腎盂腎炎と診断されます。

腎盂で起こった炎症は、やがて尿を作る機能を担う腎実質までにも及び、さらに病態が進行すると腎機能全体に支障をきたします。

この病気は、20〜30歳代の若い女性に多く発症する傾向があるため注意が必要です。

腎盂腎炎の種類

腎盂腎炎は、

  • 急激に発症する急性腎盂腎炎
  • 何度も発症を繰り返す慢性腎盂腎炎

この2つに大別されます。

ほとんどの場合が急性腎盂腎炎ですが、十分に治療をしなければ慢性腎盂腎炎に移行する可能性があるので適切な治療が必要です。

急性腎盂腎炎と慢性腎盂腎炎、それぞれ特徴や症状が異なりますので、本記事では2つに分けてその特徴を解説します。

腎盂(じんう)とは

あらためて腎盂(じんう)についてわかりやすく解説します。

腎臓は胃や腸と同じお腹にある臓器ですが、消化や吸収の働きをもつ消化器ではなく、泌尿器に分類されます。腎臓内では血液がろ過されて、老廃物や過剰な水分・塩分などの不要となったものだけを取り除きます。それが尿となって、体外へと排出される仕組みです。

そのほか、血圧の調整や赤血球の生成、骨の成長に関係するホルモンの分泌まで、幅広い機能をもつのが腎臓の特徴です。

腎盂(じんう)とは?わかりやすく画像で解説

腎臓は主に2つの構造でできています。

1つは腎実質(じんじっしつ)という中身が詰まったいわば「実」の部分です。腎実質は、皮質と髄質(腎錐体)によって成り立ちます。ここは血液を濾過してきれいにするところで、体に不要な水分と成分を含む原尿をつくります。

もう1つは、腎実質で作られた原尿を一時的にためて溜めておく漏斗状(ろうと)の部分、これが腎盂(じんう)です。

尿を運び出す経路は「腎杯・腎盂・尿管」からなります。腎杯は枝分かれした先端部で、腎乳頭にはりついて尿を受け取ります。複数の腎杯が集まって広くなった場所が腎盂です。ここから腎門とよばれる出口に向かって細くなり、尿管へと繋がります。尿管は膀胱に続き、尿を運んでいきます。

急性腎盂腎炎の症状

急性腎盂腎炎の症状急性腎盂腎炎は、悪寒をともなう高熱が急激に発症します。夕方から夜間にかけて熱が上がっていき、朝には熱が下がるものの、夕方から再び熱が上がることがあります。

発熱に伴い頭痛の症状がでたり、ガタガタと震えるような寒気や冷や汗が出たりする場合は、単なる風邪の症状と自己判断せずに、この病気を疑いましょう。

また、

  • 排尿時の痛み
  • 頻尿
  • 残尿感

など

いわゆる「おしっこのお悩み」を抱える方が多いです。

そのほか、

  • 全身倦怠感
  • 悪心(胃のむかつき、吐き気)
  • 嘔吐

など、さまざまな症状を伴う場合もあります。

また急性腎盂腎炎の症状で特徴的なものとして、腎臓は背中寄りに位置する臓器なので、背中の左右肋骨の下付近を軽く叩くと、片側だけ痛みが出ることがあります。これをCVA(肋骨脊柱角)叩打痛といいます。

腎盂腎炎はどちらか片方の腎臓だけに発症することが多いため、左右の背中を優しくたたいて、痛みの違いをチェックしましょう。

急激に発症する急性腎盂腎炎は、早期に適切な治療を受ければ比較的早く症状が改善します。

急性腎盂腎炎と診断されたら、病態が慢性化しないように完全に治すようにしましょう。

慢性腎盂腎炎の症状

慢性腎盂腎炎の症状慢性腎盂腎炎は目立った自覚症状がなく、徴候が曖昧で一貫しない場合が多いです。

たとえ症状があっても軽い腰痛や微熱程度で、見逃してしまうことも少なくありません。食欲不振や倦怠感などが現れる程度の方もいらっしゃいます。

一方で、慢性腎盂腎炎の原因が膀胱尿管逆流(膀胱にたまった尿が尿管や腎臓に逆戻りすること)である場合は、慢性的に腎盂腎炎をくり返すことで腎臓の機能が著しく低下してしまうことがあり、注意が必要です。

急性腎盂腎炎の原因

女性に多い腎盂腎炎- 発症の危険因子急性腎盂腎炎は細菌感染によって起こります。感染のもっとも多い病原菌は大腸菌で、全体の約90%を占めます。

腎盂腎炎のほとんどは、尿道の出口から侵入した細菌が尿路をさかのぼり、腎盂に達することで発症します。尿道から膀胱、膀胱から尿管、そして尿管から腎盂へという順番で、細菌がさかのぼっていくイメージです。これを上行性感染といいます。

そのほか、血液を経由して他の臓器から細菌が侵入する血行性感染、男性であれば前立腺などの周囲にある病巣から感染が起こるリンパ行性感染などがあります。

本来は尿路に細菌が侵入しても、排尿によって体外へ洗い流されるようになっています。また、免疫力によって細菌は退治されるため、そう簡単には腎盂腎炎が起こることはありません。

一方で、以下のような危険因子がある場合、急性腎盂腎炎を発症しやすくなります。

女性に多い腎盂腎炎- 発症の危険因子

腎盂腎炎を発症する危険因子としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 女性であること
    女性は男性に比べて尿道が短く、膣や肛門に尿道が隣接して位置するため、細菌が侵入しやすくなっています。大腸菌が原因として多いのは、このためです。また性行為や出産時などは菌が入りやすい環境にあるため注意が必要です。
  2. 尿路の閉塞
    前立腺肥大症や尿路結石、尿道狭窄症など、排尿障害がある場合は、尿路感染症が起こりやすくなっています。

  3. 免疫力の低下
    がんや糖尿病、その他免疫力を低下させる病気では、細菌感染を防ぐ役割を担う免疫機能が弱くなるため、腎盂腎炎を含む感染症を発症しやすくなります。また、臓器移植後や自己免疫疾患の場合は、免疫抑制剤を内服しているため、免疫力が低下して腎盂腎炎を発症する確率が高くなります。
  4. 神経因性膀胱
    神経障害により膀胱の知覚(尿意)や排尿に障害が生じる神経因性膀胱の場合、残尿が多くなり膀胱が慢性感染にかかりやすくなります。その結果、腎盂腎炎を発症しやすくなります。
  5. 長期間の膀胱留置カテーテル
    膀胱に長期間カテーテルを留置することで、尿路感染のリスクが高まり、適切でない管理の場合は腎盂腎炎を引き起こす可能性があります。

全身疾患や尿路異常が関与しない腎盂腎炎を単純性腎盂腎炎と呼びます。急性腎盂腎炎の大半はこの単純性のタイプに該当します。

慢性腎盂腎炎の原因 – 慢性複雑性腎盂腎炎

炎症が慢性的に繰り返される慢性腎盂腎炎は、急性腎盂腎炎が長引いたり繰り返されて慢性へと変わるケースもあれば、はじめから慢性で病態が進行するケースも存在します。

通常、細菌が尿路に侵入しても、排尿によって外に出されるか免疫システムによって排除されるので、腎盂腎炎が簡単に発症するわけではありません。しかし、基礎疾患(前立腺肥大、神経性膀胱、尿路の結石や悪性腫瘍、カテーテルの使用、または糖尿病やステロイド服用による全身的な感染症リスクなど)があると、繰り返し腎盂腎炎が起こる可能性が高まります。尿路結石やカテーテルといった異物は細菌の増殖を促し、再発しやすいため、これらを除去する治療が行われることが多いです。

このように、もともと尿路に何らかの疾患がある方や、糖尿病や悪性腫瘍によって免疫が低下している患者さんが発症する慢性腎盂腎炎を「慢性複雑性腎盂腎炎」といいます。

腎盂腎炎(じんうじんえん)はどうやってわかる?

腎盂腎炎(じんうじんえん)はどうやってわかる?腎盂腎炎の診断には、主に尿検査・血液検査・画像診断(超音波検査、腹部造影CT)を実施します。

  1. 尿検査
    尿検査によって、尿中の白血球や細菌を確認します。白血球が一定数以上検出された場合、尿路感染症である可能性が高くなり、さらに発熱や腰背部痛など、腎盂腎炎に特徴的な症状が見られれば、急性腎盂腎炎と診断されます。過去に膀胱炎や急性腎盂腎炎にかかったことがある場合、発熱や腰背部痛がなくても、慢性腎盂腎炎が疑われます。また、尿検査と同時に、病原菌の種類を特定するために尿の細菌培養検査も行われます。この検査は、抗生物質の感受性を確認するために必要です。
  2. 血液検査
    血液検査では、白血球増多、好中球核の左方移動、CRPやプロカルシトニン上昇などの炎症所見が認められます。病態が高熱や、頻呼吸・頻脈を伴う場合は、菌血症による全身性の炎症も疑われますので、緊急の検査、治療が必要です。腎臓は血液をろ過する臓器であり、流れ込む血流が豊富なため、簡単に血液の中に菌が侵入します。血液の培養検査で細菌が検出されれば、菌血症の状態であり、時にはショック状態と呼ばれる血圧低下を引き起こすため、血行動態にも注意が必要です。
  3. 画像診断(腹部超音波検査、腹部造影CT検査)
    腹部超音波検査では、まず尿の流れに問題がないか確認します。腎臓の超音波検査では、腎臓が腫大しており、皮質・髄質境界部に浮腫や微小膿瘍を示す低エコー域が出現することがあります。また、腹部造影CTを用いることで腎膿瘍や腎周囲膿瘍、気腫性腎盂腎炎などを評価することができます。造影CT検査による所見では、腎臓の腫大に加え、周囲脂肪組織の濃度上昇、Gerota筋膜の肥厚、腎臓内に楔状~斑状の造影不良域が認められることがあります。
    特に、水腎症と呼ばれる尿路を正しく尿が流れず、腎臓へ逆流している状態や、膿瘍と呼ばれる膿の貯まりが形成されている状態では、抗菌薬だけでの治療は難しく、迅速に泌尿器科的処置(腎瘻・ドレナージなど)を施すことが必要です。

以上のように、症状や検査結果を総合的に判断し、腎盂腎炎の診断が行われます。

早期の診断と治療が重要なため、症状が現れた場合は早めに医師に相談しましょう。

腎盂腎炎(じんうじんえん)の治療

腎盂腎炎(じんうじんえん)の治療腎盂腎炎は以下のような方法で治療を進めます。

  1. 抗生物質の投与
    腎盂腎炎の原因となる細菌感染を治療するため、抗菌薬が使用されます。軽症の場合は、適切な抗菌薬治療によって比較的早期に症状が改善されます。投与される抗生物質の種類や期間は、患者の症状や病原体によって異なります。最初はたくさんの種類の菌に効く薬(広域抗菌薬)を使い、尿や血液の培養検査を行った上で、各菌にピンポイントで効くものに変更していくことも行われます。
  2. 経口補液療法
    腎盂腎炎で起こる高熱や嘔吐によって、体内の水分や電解質が失われることがあります。そのため、経口や点滴での補液療法により、体内の水分や電解質のバランスを整えることが必要です。たくさん尿を出すことで体内から菌を流しだす効果もあります。
  3. 疼痛の管理
    腎盂腎炎によって生じる発熱、疼痛には、解熱鎮痛剤を用いて対処することもあります。
  4. 尿路基礎疾患の治療
    尿路基礎疾患を放置すると、腎盂腎炎が繰り返される可能性が高くなります。尿路基礎疾患が見つかった場合、炎症が収まった後に治療を開始します。

腎盂腎炎は早期治療が重要です。治療が遅れると、敗血症や腎不全などの合併症が発生する可能性があります。

症状が出た場合は、早めに医師の診察を受け、適切な治療を受けることが大切です。

腎盂腎炎(じんうじんえん)の予防

腎盂腎炎(じんうじんえん)の予防腎盂腎炎を予防するために、以下のようなことを心がけましょう。

  1. 十分な水分摂取
    水分を十分に摂取し、尿を十分に排出することで、腎盂腎炎の発症を予防することができます。一日に2リットル以上の水分を摂取することが推奨されます。
  2. 適切な排尿
    排尿を我慢しすぎないようにし、尿をこまめに排出するようにしましょう。また、トイレの後はきちんと拭き取るようにすることも大切です。
  3. 衛生管理
    日頃から清潔な下着をつけ、清潔な状態を保ちましょう。特に女性の場合は、膣から細菌が尿道に入り込むことで腎盂腎炎を引き起こすことがあります。そのため、衛生管理には注意しましょう。トイレの後はきちんと拭き取るようにすることも大切です。
  4. 免疫力の向上
    ストレスや睡眠不足などが原因で免疫力が低下すると、感染症を発症する可能性が高まります。適度な運動やバランスの良い食事、十分な睡眠などを心がけ、免疫力を向上させることが大切です。

腎盂腎炎は早期発見・早期治療が重要です。症状が出た場合は、適切な治療を受けるためにも早めに医師に相談しましょう。

腎盂腎炎(じんうじんえん)に関するよくあるご質問

腎盂腎炎は何科を受診する?

腎盂腎炎の治療には、泌尿器科、内科、腎臓専門医などがいる医療機関を受診しましょう。

一般的には、腰痛や発熱、尿の異常などの症状が現れた場合は、まず内科やかかりつけの医師に相談することが推奨されます。 その後、尿検査や血液検査、超音波検査などの検査を行い、腎盂腎炎かどうかを確認します。

専門的な治療が必要となる場合は、泌尿器科や腎臓専門医の診療を受けることが推奨されます。最適な治療法を選択するために、医師の指示に従って適切な診療を受けるようにしましょう。

腎盂腎炎はどのくらいで治る?

一般的には2週間から4週間程度が必要です。

腎盂腎炎の治療期間は、病気の進行具合や治療の方法によって異なりますが、急性腎盂腎炎の場合、抗生物質の投与によって細菌感染を治療し、発熱や腰痛などの症状が改善されるまで2週間から3週間程度の期間が必要となります。その後も、完全に治癒するまでには、さらに1週間から2週間程度かかることがあります。

慢性腎盂腎炎の場合、症状は軽くなることが多いため、治療には長期的な投薬が必要となることがあります。また、慢性腎盂腎炎は腎機能の低下を招くことがあるため、定期的な尿検査や医師の指導の下で適切な治療を行うことが重要です。

腎盂腎炎はうつりますか?

腎盂腎炎は感染症の1つですが、周囲にうつるというタイプの病気ではありません。

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こちらの記事の監修医師

永井 良

ペアライフクリニック横浜院永井 良 先生

ペアライフクリニックは自由診療の性感染症内科です。
当院は「性病を減らす」ためにクリニックをオープンしました。

性感染症でお悩みの患者さまは様々な事情を抱えてご来院されます。どこよりも患者さま思いのクリニックを作ることで、全ての方に行って良かったと思ってもらえるクリニックづくりを日々取り組んでおります。

性感染症は、一般的な風邪やケガと違い他人に相談や共有しにくい病気です。また実際にクリニックに行くとなった際に様々な不安を抱えるかと思います。

当院では「院内のプライバシー」「匿名性」「価格」「スタッフの待遇」「アクセス」などの来院する上で不安を感じるポイントに対して、真摯に向き合いどこよりも通いやすいクリニックづくりを追求しています。

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