発熱、寒気、息切れ、意識のぼんやり、尿の減少、皮膚の変色(冷たく青白い)など
発熱、寒気、息切れ、意識のぼんやり、尿の減少、皮膚の変色(冷たく青白い)などが敗血症の初期にみられることがあります。特に「なんとなくおかしい」と感じる体調の変化が急速に進む場合は、早期受診が重要です。
病原体が体内に侵入し、増殖し、炎症などの症状を引き起こすことを「感染症」といいます。この感染症による炎症が全身に及び、命に危険が及ぶ状態となったものが敗血症です。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、その重篤化が不安視されていますが、その病態悪化にはこの敗血症が関与していると考えられています。
本記事では、敗血症の診察をしている医師に監修していただき、その原因と症状、死亡率の高い敗血症性ショックを解説しています。
目次
私たちの体には「免疫機能」とよばれる防衛システムが備わっています。ウイルスや細菌などの侵入によって感染症が発生すると、このシステムが作動し、免疫細胞が細菌やウイルスと戦います。
これは正常な反応ですが、ときにその免疫細胞が過剰反応となって制御不能になり、自身の臓器を攻撃してしまうことがあります。これが敗血症(読み方:はいけつしょう)とよばれる状態です。
敗血症は特定の疾患の名前のように聞こえますが、実際にはこのような生命を脅かすほどの臓器障害が引き起こされる状態を指すものです。
敗血症には、定義・診断基準があります。
下記の2項目以上に当てはまる場合、敗血症と診断されます。
因 子 | 数 値 |
---|---|
体温 | <36℃ もしくは >38℃ |
心拍数 | > 90回/分 |
呼吸数 | > 20回/分 |
白血球数 | > 12,000/μL または < 4,000/μL |
敗血症は、人にうつる病気ではありません。
敗血症は、何らかのウイルスや細菌によって感染症を引き起こしたものが重篤化する病気です。敗血症自体が、人から人へと感染するわけではありません。
敗血症の原因となる感染症は、
が多い傾向にあります。
男性は肺炎をはじめとした呼吸器系の感染症が多く、女性は尿路感染症などの泌尿生殖系が多く認められます。
そのほかにも、
など、敗血症を引き起こす感染症はたくさんあります。
感染する微生物は
など多様ですが、細菌(バクテリア)による感染が多く認められています。
下記のケースでは、感染と重篤化のリスクが高いと考えられています。
中には人体に常在し、本来は体に害を及ぼさない「常在細菌」によって感染症に至ることもあります。
など、血液細胞が正常につくられない病態によって免疫機能が著しく低下し、敗血症の発症リスクが高まります。
また、造血幹細胞移植後も同様の状態です。
などをはじめとする慢性呼吸器疾患や、
などの慢性心疾患があると、敗血症のリスクが高まると考えられています。
血糖値が十分にコントロールされていないと、白血球の正常な機能が妨げられて感染症に陥りやすいです。
とくに腎疾患などの合併症がある場合は、重篤化しやすいため注意が必要です。
透析患者の方や腎移植例では、食細胞が十分に機能しない状態にあり、感染リスクが高いと考えられています。
また、肝硬変の場合は感染症を機に、意識障害などを起こすことがあります。
など、免疫異常のある神経疾患では、敗血症のリスクが高いと考えられています。
膠原病などの自己免疫疾患のほか、
など、薬物治療を継続的に受けている場合も感染リスクが高まります。
主な初期症状としては、発熱(とくに38℃以上の高熱になることが多い)、悪寒(発熱時に起きる寒気、体がゾクゾクし、ガタガタ震える)、発汗などが見られることがあります。
そのほかにも、
上記のような症状がみられることもあります。
これらの症状が該当し、いつもと様子がおかしいと感じたら、医療機関を受診しましょう。
敗血症を発症し、適切な治療が行われない場合は、低血圧による意識障害などを引き起こしてショック状態となります。
その結果、多数の臓器に障害が及びます。
敗血症によって起こる臓器障害には、
などがあげられます。
これらの臓器障害が複数重なった状態が多臓器不全です。
多臓器不全になると、数時間で死亡してしまう可能性が高くなります。
感染症による全身の炎症によって血圧が危険なレベルまで低下し、脳や腎臓など全身の重要な臓器に十分な酸素を届けられなくなる重篤な状態を、敗血症性ショックといいます。
などの症状があらわれます。
まずは問診によって体の状況を把握確認し、続けて身体診察を行います。
など、身体の診察を行うことで感染を起こしている場所を特定することができます。また、身体診察によって重症度の推測をします。
敗血症は命にかかわるとても危険な状態です。敗血症が疑われる場合は、これらの診察や検査によって迅速な診断を行い、適切な治療を早急に開始されることが重要です。
そのほか、専門的な検査を解説します。
敗血症の確定診断および原因菌の特定には、細菌学的検査(微生物学的検査)が欠かせません。中でも最も重要なのが血液培養検査であり、発熱やショック症状が現れた段階で、抗菌薬投与に先立って速やかに採取することが基本とされています。理想的には2セット(異なる部位から2回)採取され、菌の同定と薬剤感受性試験が行われます。 敗血症の原因は血流感染にとどまらず、肺炎・尿路感染・胆道感染など多様な部位に及ぶため、感染部位に応じた培養(尿培養、喀痰培養、胆汁培養、膿培養など)も同時に行われるべきです。特定された病原菌に基づいて抗菌薬を適切に選択し、**早期のde-escalation(抗菌薬の狭域化)**を行うことが、治療効果の向上と耐性菌対策の両立につながります。
敗血症の存在を疑う際、血液検査による炎症反応の評価が重要な手がかりとなります。特に**白血球数(WBC)やC反応性タンパク(CRP)**は、全身性炎症反応症候群(SIRS)や感染症の活動性を反映する代表的なマーカーとして用いられています。 白血球数は増加(12,000/μL超)または減少(4,000/μL未満)いずれの場合も敗血症の可能性があり、重症化の兆候となり得ます。CRPは肝臓で産生される急性期タンパク質であり、感染や炎症の存在を示す指標です。ただし、CRPは感染以外の炎症でも上昇するため、単独での判断は避け、臨床経過や他の検査所見とあわせて評価する必要があります。 近年では、細菌感染により特異的に上昇する**プロカルシトニン(PCT)**の測定も注目されています。ウイルス感染では上がりにくく、細菌性敗血症との鑑別に役立つため、抗菌薬開始・中止の判断にも利用されるようになってきました。
敗血症では、感染の原因部位(感染巣)を特定し、適切な治療方針を立てることが極めて重要です。そのためにX線検査、CT検査、超音波検査(エコー)などの画像診断が積極的に行われます。 たとえば、胸部X線検査では肺炎の有無を確認できます。腹部超音波検査は胆嚢炎や腎盂腎炎、膿瘍の有無を簡便に評価でき、身体への負担も少ないため救急現場でも頻繁に用いられます。 より詳細な評価が必要な場合には、造影CT検査が有用です。腹腔内膿瘍、腸管穿孔、尿路感染症、縦隔炎など広範な感染の評価に適しており、外科的ドレナージの必要性を判断する材料にもなります。 また、感染性心内膜炎が疑われる場合は、**心エコー(特に経食道エコー)**を用いて心臓弁膜の病変や疣贅の有無を確認する必要があります。
敗血症とは、感染症によって生じた炎症反応が全身に波及し、臓器障害を引き起こす重篤な病態です。診断には、以下のスコアや指標が用いられます。
かつて主流だった基準。以下のうち2項目以上を満たすとSIRSと判定されます。
※SIRSは感度は高いものの特異度が低く、敗血症以外でも陽性になるため、現在では補助的に使われています。
現在の敗血症診断ではSOFAスコアが中心です。敗血症は、「感染症が原因でSOFAスコアが2点以上上昇している状態」と定義されます。
SOFAは以下6項目の臓器機能を評価します:
簡易スクリーニングツール。以下3項目中2項目以上で敗血症を疑います。
※qSOFAはベッドサイドで迅速に評価でき、救急や一般病棟でのスクリーニングに有用です
敗血症の治療は、発症後の経過が非常に急速であるため、いかに早く適切な初期対応を行えるかが、患者の予後を大きく左右します。
まず最も重要なのは、感染源を特定し、それを確実にコントロールすることです。感染の原因となっている部位(肺、尿路、腹腔内、皮膚など)を的確に見極め、必要に応じてドレナージやデブリードマン(壊死組織の除去)といった外科的処置も併用されます。そのうえで、原因菌が明らかでない場合でも、感染が疑われた時点で直ちに広域抗菌薬を投与することが推奨されており、投与の遅れが死亡率の上昇に直結することが知られています。血液培養などの検体採取を速やかに行い、結果に基づいて使用する抗菌薬を適切に絞り込む(de-escalation)ことで、治療効果を高めつつ、薬剤耐性のリスクを抑える対応も重要です。
また、敗血症では急激な血圧低下を伴うことが多く、血行動態の安定化を目的とした輸液療法と昇圧薬の使用が不可欠です。初期には十分量の輸液(通常は体重1kgあたり30mL程度)を速やかに行い、それでも血圧が改善しない場合には、ノルアドレナリンなどの昇圧薬を使用して臓器への血流を確保します。 さらに、敗血症によって複数の臓器不全が進行することが多いため、呼吸不全に対しては人工呼吸器の管理、腎機能障害に対しては血液透析や持続的血液濾過(CHDF)など、必要に応じて臓器を補助・代替する支持療法を並行して行います。場合によっては副腎不全を伴うケースもあり、その際にはステロイドの投与が検討されることもあります。
このように、敗血症の治療は単一の対処法ではなく、感染制御、抗菌薬の早期投与、循環管理、臓器サポートなど複数の戦略を統合した、時間との闘いであることが特徴です。
敗血症の予防は、日常生活における基本的な衛生習慣から医療現場での高度な感染対策まで、幅広いレベルでの対応が求められます。特に高齢者や乳幼児、糖尿病・慢性疾患を抱える人、がん治療や免疫抑制薬を使用している患者では、感染症への抵抗力が低下しており、敗血症への進行リスクが高くなるため、より一層の注意が必要です。
予防の第一歩は、ワクチンによる感染症の未然防止です。肺炎球菌やインフルエンザウイルス、さらには新型コロナウイルスに対するワクチン接種は、重症化や敗血症の発症を防ぐうえで非常に効果的です。特に高齢者施設や医療機関では、集団感染を防ぐ観点からも、これらのワクチン接種が積極的に推奨されています。
また、日常生活においては、手洗いやうがい、適切なマスクの着用、傷口の清潔保持など、基本的な感染予防行動を徹底することが重要です。些細な感染が命に関わる敗血症に発展することがあるため、小さな体調の変化にも敏感に対応し、必要に応じて早期に医療機関を受診する意識が求められます。
医療現場では、中心静脈カテーテルや人工呼吸器などの医療器具が感染の原因となることもあるため、医療スタッフによる適切な器具管理と手指衛生の徹底が欠かせません。また、抗菌薬の適正使用(Antimicrobial Stewardship)も非常に重要であり、不要な抗菌薬の使用を控え、耐性菌の発生を防ぐ取り組みも、敗血症の予防という観点から強調されるようになっています。
つまり、敗血症の予防とは、単に感染を避けるだけでなく、「感染を重症化させない仕組み」を個人・社会・医療機関が一体となって整えていくことだといえます。
敗血症(はいけつしょう)とは、細菌やウイルス、真菌などの感染がきっかけとなり、全身に炎症反応が広がることで臓器障害を引き起こす、命にかかわる重篤な状態です。感染症が全身に影響を与え、「多臓器不全」や「敗血症性ショック」に進行するケースもあります。
発熱、寒気、息切れ、意識のぼんやり、尿の減少、皮膚の変色(冷たく青白い)など
発熱、寒気、息切れ、意識のぼんやり、尿の減少、皮膚の変色(冷たく青白い)などが敗血症の初期にみられることがあります。特に「なんとなくおかしい」と感じる体調の変化が急速に進む場合は、早期受診が重要です。
菌血症は、血液中に細菌が一時的に存在している状態を指します。
一方、敗血症はその菌血症や局所感染が原因となって全身に炎症が広がり、臓器障害を起こす状態を指します。敗血症の方がより深刻で、早期治療が不可欠です。
健康な方でも、感染症の重症化により発症する可能性はあります。
敗血症は全年齢で起こり得ますが、特に高齢者や新生児、糖尿病・がん・腎疾患などの持病がある方、免疫抑制治療中の方はリスクが高くなります。健康な方でも、感染症の重症化により発症する可能性はあります。
敗血症は早期診断・早期治療を受ければ回復可能な病気です。
ただし進行が早く、治療の遅れが命に関わるため、感染症の悪化を感じたら速やかに医療機関へ相談してください。集中治療が必要となるケースも少なくありません。
治療の中心は、感染源の特定と除去、早期の抗菌薬投与、血圧維持のための輸液や昇圧薬、人工呼吸器や透析などによる臓器サポートです。これらを組み合わせ、集中的な全身管理を行うことが求められます。
敗血症そのものを予防するワクチンはありませんが、原因となる感染症(肺炎、インフルエンザ、COVID-19など)に対するワクチン接種は、有効な予防策となります。特に高齢者や基礎疾患のある方は接種が推奨されます。
敗血症自体は他人にうつることはありませんが、原因となった感染症が飛沫や接触を通じて感染する可能性はあります。予防のために、手洗いやマスクの着用、清潔な環境づくりが重要です。
一度敗血症を経験した方は、免疫力や持病の影響で再発する可能性があります。
日常生活での感染予防、定期受診、適切な基礎疾患の管理が再発予防につながります。
回復後も、記憶障害、集中力の低下、慢性疲労、筋力低下などの「ポスト敗血症症候群」が見られることがあります。
長期的なリハビリや心身のサポートが必要になる場合もありますので、医療機関との継続的な連携が大切です。
荒井駅前のぐち内科クリニック野口 哲也 先生
宮城県仙台市の「荒井駅前のぐち内科クリニック」 院長の野口です。
私は岩手県盛岡市で大学生活を送り、東北労災病院内科、東北大学消化器内科での消化器病学の修練、対がん協会での胃・大腸がん検診活動、そして、宮城県立がんセンターでの消化器癌に対するがん治療に従事してまいりました。消化器内科の専門家として診断から治療、特に内視鏡治療を行ってきました。最新の治療や全国的な治験や研究にも参加してきました。
これまで地域医療にも携わり、高血圧や糖尿病、肺炎や感冒、インフルエンザなど、様々な病で通院してくる患者さんの診療にも従事してまいりました。震災復興が進む、ここ荒井地区において、これまでの28年間の勤務医としての経験を活かし、地域の皆様の健康を支える医療、身近なかかりつけ医を目指し、少しでも貢献させて頂ければ思っております。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
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