内臓からくる、かゆい湿疹とは?肝臓病や腎臓病と皮膚症状の関係を画像で解説
頭皮から足先に至るまで、全身を覆うようにして存在する皮膚。私たちにとって皮膚は、外部からのさまざまな刺激やストレスに対抗するため、バリアー機能を備えた防護スーツのような役割を担っています。
皮膚は天候・気候といった外部環境の影響だけでなく、そのほかにもアレルギーや免疫の異常、感染症、ときにはストレスなど、体の内側の部分、内部環境の影響も受けます。 そして意外と知らない方も多いのが、本記事で解説する「内臓疾患と皮膚の関係」です。
本記事では、皮膚科専門医に監修していただき、内臓からくる湿疹、内臓疾患の早期発見の手がかりとなる皮膚の兆候について解説しています。
目次
内臓からくる湿疹とは?- デルマドローム
古くから「皮膚は内臓の鏡」と称されてきました。これは、皮膚の病気には内臓の病変に関係が深いものがあるということを意味しています。
日々の診療で皮膚科専門医が扱う病気は広範囲に及びます。内臓からくる湿疹など、内臓の病気が皮膚症状として表れることは決して少なくありません。むしろ皮膚症状から、内臓系の病変が見つかることも多いです。
皮膚の異変、症状やトラブルから発信される病気のサインを、見逃さないようにすることが大切です。
デルマドームとは
内臓疾患によって起こる症状、病気の前触れが時に、全身の皮膚へ反映されることがあります。内臓の病気は体の中のさまざまなところに関連し、ときに合併症という形で影響を及ぼし合うことが少なくありません。それらの病変を具体的に確認できる1つの手立てとなるのが、直接、私たちが目にすることができる「皮膚」ということです。
皮膚科専門医はその皮膚の病変から、内臓の病気の早期発見の手がかりとなる皮膚の兆候を見つけることが出来ます。このように、内臓病変と関係する皮膚病変をデルマドーム(dermadrome)といいます。
デルマドームには、
- 直接デルマドローム
- 間接デルマドローム
の2つに大別されます。
直接デルマドロームとは、皮膚科医が視診によって直接的に内臓病変を特定できるデルマドロームです。たとえば、悪性腫瘍(がん)の皮膚転移などがあります。
一方、間接デルマドロームは、直接の因果関係はないものの、高い頻度で経験する皮膚疾患と定義されています。たとえば、悪性腫瘍が体になんらかの影響を及ぼし、その結果、皮膚症状が生じるといった場合です。
内臓からくる湿疹症状の特徴
原因はさまざまですが、よくある症状としては
- かゆみ、赤み
- ザラザラ、ブツブツした発疹
- ポツポツとした小さな水疱
などがあげられます。
それでは下記に、代表的なデルマドロームの症例をあげます。
肝臓病と皮膚症状
肝臓病は主に肝臓に炎症が起こったり腫れたりする病態です。日本ではウイルス性肝炎という病気が最も一般的で、それに次いでアルコールによる肝障害も見られます。
肝炎は、
- 急性肝炎
- 慢性肝炎
- 劇症肝炎
といったさまざまなタイプに分類されます。
皮膚が黄色っぽくなる黄疸(おうだん)
肝臓の病気によって肝臓機能が低下すると、皮膚が黄色っぽくなる黄疸(おうだん)という症状が出ることがあります。たとえば急性肝炎では、風邪のような症状がはじめに現れ、その後に黄疸が起こることが多いです。
皮膚や目の白いところ(結膜)が黄色く見えることがあります。皮膚科診療において遭遇することが多く、また内科や皮膚科以外で見過ごされるケースも少なくありません。適切な治療が行われれば多くの方で回復が見られますが、悪化する場合もあります。
見た目は異常がないのに、体がかゆい
肝臓が作り出す胆汁が血液中に入ることによって、かゆみの症状が起こることがあります。とくに胆汁うっ滞(胆汁の流れが悪くなる)では、強いかゆみが生じます。
また、黄疸とともに強いかゆみがあらわれることがあります。黄疸が出る前に皮膚がかゆくなる病気に「原発性胆汁性肝硬変」というものがあります。この病態は、自己免疫異常が原因で肝臓のなかに胆汁がたまり、肝臓の機能が低下していく病気です。
顔の鼻の赤みがとれない(赤ら顔)
お酒をよく好む方で、頬や鼻の皮膚がいつも赤い方がいらっしゃいます。この病態を酒さ(しゅさ)といいます。酒さは「赤ら顔」とも呼ばれ、読んで字の如くアルコールの過剰飲酒によって出現することが多い皮膚病です。
しかしながらアルコールと関係なく出現することもあり、原因は解明されていない病気です。年齢的には中年層、男性よりも女性に多いとされており、一説では肝臓で不活性化されなかった過剰の女性ホルモンの蓄積によるものともいわれています。
酒さの治療としては、アルコールと関係する場合はうまく飲酒を控えるよう指導すること、また外用薬・内服薬で治療することもあります。
近年は難治症例に対し、レーザー治療も行われています。劇的に改善することもあります。
手のひらが赤くなる
手のひらが赤くなる手掌紅斑(しゅしょうこうはん)という病態は、「肝臓の手」ともよばれます。
手掌紅斑は手のひら周囲の血管が拡張する現象で、肝臓病の初期兆候として指摘されます。主に肝機能の低下や、肝機能障害(慢性肝炎、肝硬変など)に関連して出現することがあります。
胸や背中にクモ状の血管がみられる
鮮やかな赤色の小さい斑点が皮膚に現れるクモ状血管腫という病態があります。拡張した毛細血管(最も細かい血管)の状態が、赤く細いクモが脚を広げているように見えるため、そのような名前がついています。
クモ状血管腫の原因は明らかになっていませんが、肝硬変の患者さんをはじめ、妊婦さんや経口避妊薬を使用している女性にも見られます。血管腫は顔面に現れることもありますが、小児や肌の色が薄い健康な人でもよく見られることもあります。
腎臓病と皮膚症状
腎臓は体内の廃物を尿として排出する器官です。慢性腎臓病の患者さんにおいては、
- かゆみが強くなる
- カサカサとした皮膚の乾燥
- 肌が黒くなる(色素沈着)
- 爪の異常
など、さまざまな皮膚症状が報告されています。
体のあちこちがかゆい、眠れない
かゆみは皮膚の問題だけでなく、腎臓の疾患でも発生します。腎臓の機能が低下すると、廃物が血液や皮膚に溜まっていきます。この廃物が皮膚内の痒み受容体(とくにミュー・ペプチド受容体)を刺激し、かゆみを誘発します。皮膚の乾燥も要因の1つです。
体のあちこちに強いかゆみがあって眠れないというような症状は、とくに慢性腎臓病が進行した腎不全の患者さん、透析患者さんの中で多くみられます。約半数が強いかゆみを経験しているという報告があります。
腎臓の機能が低下している方は、保湿剤を使用するとかゆみが軽減される可能性があります。皮膚を過度にこするなど、刺激を与えすぎる行為はやめましょう。
糖尿病と皮膚症状
糖尿病は、高血糖をはじめとする代謝異常、血管の損傷、また免疫力の低下によってさまざまな感染症を引き起こす全身性の疾患です。長期にわたる高血糖は自律神経へ大きく影響を与えます。
肌がカサカサする、湿疹が起こりやすい
糖尿病の患者さんは皮膚が乾燥してカサカサになり、湿疹などが出たり、かゆみを感じたりすることがよくあります。これは、高血糖が引き起こす脱水状態や、自律神経機能の障害によって汗が出にくくなることが一因とされています。
自律神経が侵されると、自然発汗機能を低下させてしまい、汗が出にくくなります。また、濃度を下げて改善させようとして水分を欲する(多飲)ようになり、結果、多尿になって全身が脱水する現象が起こります。それが皮膚の乾燥を進行させ、湿疹や皮膚炎の発生リスクを高める原因です。
痛みは無いが、足の傷が治りにくい
糖尿病で高血糖の状態が長きにわたって続くと、免疫異常が誘発されて血液中の白血球の働きが低下していきます。白血球は主に身体への異物の侵入に対しからだを守る働きを担っているため、細菌などに対する抵抗力が徐々に失われていきます。
高血糖の影響を受けて「痛みを感じる神経」に栄養障害が起こることがあります。すると足先に傷ができても、その痛みを感じにくくなり、ちょっとした自分の傷の発見がおそくなってしまうのです。その結果、些細な外傷や深爪などによって起こる足の皮膚の微小な傷口から細菌が感染して、化膿してしまうということが起こります。このような病態を、糖尿病性足潰瘍といいます。
痛みの感覚が鈍くなり、化膿した状態をそのままにしていると、やがて皮膚組織が死んでしまい皮膚の深いところが腐っていきます。これが壊疽(えそ)という状態です。さらに壊疽は皮膚に穴が空いた状態(皮膚潰瘍)へと進行し、末期には骨まで腐ってしまう腐骨化が起こります。この病態は糖尿病性壊疽とよばれ、最終的には部位の切断が必要になることもあるとても怖い病気です。
糖尿病の診断を受けた方は、常に足のキズの有無を観察し清潔にしていく事が大切です。そして万が一、痛みのない小さい足の傷・ケガができた場合でも、ほうっておくことのないよう注意しましょう。足に怪我をしないよう靴下をはいたり、自分に合った靴を履くようにするなどのフットケアを心がけることが大切です。
ストレス・免疫低下によって起こる皮膚症状
内臓とともに、時に心の疲れや体力の低下など、ストレス・免疫低下によって起こる皮膚症状があります。特定の原因がなく、何らかの皮膚症状が出ている場合は、ストレスの影響もあり得ます。ストレスにもさまざまな種類がありますが、それらが複雑な形で絡み合い、皮膚の健康状態に影響を及ぼすといわれています。
- 日々、仕事に追われていて疲れている
- 睡眠不足が続いている
- 不規則な食事生活が続いている
ストレスによって起こる湿疹(アトピー性皮膚炎)
アトピー性皮膚炎とは、皮膚のバリア機能が低下してしまい、湿疹による強いかゆみが繰り返し起こる病態です。アトピー素因があるとストレスを感じたときに、我慢できずにかゆいところを掻いたりこすったりしてしまいます。
ついつい皮膚をかきこわしてしまうと、肌が傷つけられてバリア機能も破壊してしまいます。皮膚の状態はさらに悪化し、より一層かゆみが増すという悪循環に陥りやすくなるのです。炎症が悪化し、さらなるかゆみや湿疹を誘発します。
ストレスによって起こる蕁麻疹(じんましん)
蕁麻疹(じんましん)は、皮膚に繰り返し現れる赤みやくっきりとした円形もしくは地図状の皮膚の盛り上がりが特徴的です。下記が蕁麻疹の写真です。よく湿疹と混在されますが、湿疹とは違った蕁麻疹特有の症状があります。
かゆみや赤み、ブツブツ・水ぶくれなどの特徴的な症状でる湿疹と違って、蕁麻疹は一時的に赤くぷっくりとした腫れが突然現れます。かゆみを伴うこともありますが、数時間以内に消失したり、また出たりもします。このように「突然出ては消える」という点が蕁麻疹の特徴です。
水泡ができたり、傷口がジュクジュクと化膿してしまうこともある湿疹と違って、蕁麻疹は膿が溜まったり、水泡になることはありません。蚊に刺された後のように、ぷくっと膨れては、その後、跡形もなく消えていきます。
蕁麻疹の原因は多岐にわたりますが、発症や悪化の背後には心理的なストレスも大きく関わっていると考えられています。
蕁麻疹の皮膚細胞を研究した結果、ストレス反応に関連するタンパク質の量が増加しており、それがかゆみを引き起こすヒスタミンの放出を促していることが明らかになっています。
また、ストレスによる蕁麻疹は
- 免疫力の低下
- ホルモンバランスの崩れ
なども、その誘発要因としてあげられます。
ちりちり、ズキズキとした痛みのある皮膚症状
免疫力が低下すると、ウイルスが体全体に広がったり他の臓器に転移するリスクが高まります。
単純ヘルペスは肉体的ストレス、精神的ストレスが重なることで発症しやすい病気です。
帯状疱疹(たいじょうほうしん)という病態は、加齢などによる免疫機能の低下が発症原因の1つとされています。免疫低下が起こった際、以前にかかった水ぼうそうが片側性の皮膚に比較的広めの範囲で再発します。後遺症としていつまでも痛みが残ってしまうことも少なくありません。
帯状疱疹は顔面に出現すると、難聴や顔面神経麻痺の原因になることもあります。(ラムゼイ・ハント症候群:ハント症候群)
そのほかの皮膚症状
糖尿病患者さんは、毛穴が赤くはれて小さく盛り上がって痛む「毛包炎」や、癤(せつ)といういわゆる「おでき」ができやすくなります。
さらに水虫にも感染しやすくなる、帯状疱疹が発症しやすくなるなど、さまざまな皮膚疾患のリスクを高めます。
一般的な疾患である肝臓病、糖尿病、高脂血症、腎臓病、および内臓がんなどの病気が皮膚に与える影響について説明します。内臓疾患以外にも、糖尿病や甲状腺などのホルモンや内分泌系の異常でも皮膚や爪、髪の毛などに影響が出ることがあります。
内臓の悪性腫瘍による皮膚症状
体のいたるところに茶色や黒色のできもの(いぼ)ができた
手でさわれるほどの盛り上がったシミができる皮膚疾患に脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)という病態があります。体のいたるところに茶色や黒色のできもの(皮膚良性腫瘍)ができます。
脂漏性角化症は中年以降に発症することが多い病態のため「老人性いぼ」や「老人性疣贅(ろうじんせいゆうぜい)」とも呼ばれます。ただし、若年層の方の肌にできることも決して珍しくはありません。
また、この脂漏性角化症が短期間のうちに急激に多発する病態をレーザー・トレラ(Leser-Trélat)徴候といいます。ときに痒みを伴うこともあります。
この皮膚病変がみられた場合は、内臓の悪性腫瘍(とくに胃がん)が存在する可能性が高いと考えられます。全身検索が必要となりますので、なるべく早めに受診してください。
血管に起こる病態と皮膚症状
顔、とくに目頭に黄色っぽいしこりが目立ってきた
これは眼瞼黄色腫と呼ばれる皮膚病で高脂血症状、高コレステロールなどでみられることが多いとされています。その際は血液検査の結果に応じて生活指導,血中の脂質成分を低下させる事で治療もしくは外科的に処置する事で治療します。
その他に体の痒みやいつまでも良くならない慢性蕁麻疹などもあります。治りにくい皮膚病は、その背後に何かの基礎疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。
内臓からくる皮膚症状に関するよくあるご質問
がんの前兆として蕁麻疹が出ることはありますか?
蕁麻疹は、がんの前兆として出る皮膚疾患ではありません。
蕁麻疹は突然に現れて、その後しばらくすると跡かたなく消える皮膚疾患です。出ては消えてを繰り返すため「内臓の病気があるのでは?」と不安に思う方がいらっしゃいます。蕁麻疹は主にアレルギー反応によって発症する病態です。 一方「がん」は、体内の異常な細胞が増殖して起こる病気です。この2つに直接的な関係はなく、それぞれが独立した病気です。そのため、詳しく内臓の検査を行っても、蕁麻疹につながるような手がかりを得ることはほとんどありません。蕁麻疹があるからといって、がんをはじめすぐに内臓の病気を疑う必要はないと考えます。
こちらの記事の監修医師
佐々木皮膚科佐々木 豪 先生
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