最終更新日:2024.10.11 | 投稿日:2024.10.11

タール便とは?便が黒い原因、黒っぽい下痢の対処法を解説

タール便とは?便が黒い原因、黒っぽい下痢の対処法を解説

黒いタール便は、消化管の上部からの出血のサインであり、特に胃潰瘍や食道静脈瘤破裂などの緊急性の高い疾患が背景にあることが多いです。早期に発見し、適切な診断と治療を受けることで、命に関わる合併症を防ぐことができます。

本記事では、消化器内科の専門医に監修して頂き、便が黒くなる原因、黒っぽい下痢が出た際の対処法を解説しています。

タール便(黒い便)とは?

タール便とは、消化管の上部、具体的には食道、胃、十二指腸といった部分からの出血が原因で生じる異常な便のことです。通常の便は茶色ですが、タール便は黒く、さらに粘り気が強い特徴を持っています。これは、出血した血液が消化管内で消化・分解され、その過程で便の色が変わるためです。

タール便が黒くなる理由は、消化管で出血が起こり、血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる酸素を運ぶ成分)が消化液にさらされることにあります。ヘモグロビンは酸化されると硫化ヘモグロビンという物質に変化します。これが便の色を黒くする原因です。出血が食道や胃、十二指腸で起こると、血液は胃酸や腸内の消化液に長時間さらされます。この過程で、血液の赤い色は徐々に変わり、黒っぽく、粘り気のある状態へと変化します。これが、タール便が「黒くて粘り気がある」理由です。また、タール便は通常、コールタール(アスファルトのような黒い物質)に似た質感を持っているため、この名前が付けられています。

タール便となる出血のメカニズム

タール便を引き起こす出血の具体的なメカニズムは以下のようになります。

  1. 出血の発生
    胃や十二指腸に潰瘍ができたり、食道静脈瘤が破裂したりすると、上部消化管から血液が流れ出します。
  2. 血液の消化
    出血した血液は、胃酸や消化液に混ざりながら、消化管を通過していきます。特に胃酸が強く働く胃の中では、血液の成分が分解されます。
  3. ヘモグロビンの変化
    消化液にさらされると、血液の中のヘモグロビンが酸化し、硫化ヘモグロビンという黒っぽい物質に変わります。
  4. 便の黒色化
    硫化ヘモグロビンの色が便に移り、便が黒く変わることでタール便が生じます。

症状としてのタール便、受診の目安は?

タール便は、単に便の色が変わるだけではなく、消化管での出血を意味します。そのため、しばしば腹痛、吐血(血を吐く)、あるいは貧血の症状が伴うことがあります。特に出血量が多い場合は、めまいや息切れ、極度の疲労感を感じることがあり、これは血液の喪失による貧血が原因です。

タール便は上部消化管からの出血を示す重要なサインであり、潜在的に危険な状態を示している可能性があります。したがって、タール便を見たら、その回数や他の症状の有無にかかわらず、できるだけ早く医療機関を受診することが推奨されます。

タール便が見られた際の受診の目安は以下の通りです。

タール便で早急に受診すべき状況

  1. タール便が1回でも見られた場合

  2. タール便にともなう合併症状がある場合
    立ちくらみやめまい、ふらつき、腹痛、吐き気や嘔吐、発熱、食欲低下、体重減少など

  3. 大量の黒い便があり、ふらつきがある場合
    ※ これは緊急事態であり、救急外来を受診する必要があります。

タール便は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃がんなどの重篤な疾患の可能性があるため、放置せずに必ず医療機関(消化器内科)を受診しましょう。

鉄剤の服用やイカ墨料理、赤ワインの摂取でも黒い便が出ることがありますが、これらの可能性がない場合は特に注意が必要です。1回だけの排便であっても、消化器内科で相談することが大切です。

タール便は上部消化管からの出血を示す重要なサインであり、潜在的に危険な状態を示している可能性があります。したがって、タール便を見たら、その回数や他の症状の有無にかかわらず、できるだけ早く医療機関を受診することが推奨されます。

黒い便、黒っぽい下痢が生じる主な原因

黒い下痢の原因は、さまざまな要因が考えられますが、その多くは消化管内での出血によるものです。便が黒くなる理由は、血液が消化管内で酸化されることによるものが一般的ですが、特に下痢を伴う場合、出血の他に消化器の異常が強く疑われることがあります。

以下に、黒い下痢の主な原因を解説します。

消化管からの出血(特に上部消化管)

最も重要な原因は、上部消化管(食道、胃、十二指腸)からの出血です。出血した血液が胃酸や消化酵素に触れることで酸化し、便が黒くなります。上部消化管出血によって血液が消化管を素早く通過する場合、下痢の形で排出されることがあります。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍

潰瘍が進行すると出血を引き起こし、その血液が黒い下痢として現れることがあります。 胃潰瘍は胃の粘膜に潰瘍ができる病気です。出血し、これがタール便の原因となることがあります。胃潰瘍は、ピロリ菌感染、ストレス、あるいは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用などが関与して引き起こされます。
十二指腸にできた潰瘍も同様に出血を引き起こし、その結果としてタール便が生じます。胃潰瘍と同じく、ピロリ菌やNSAIDsが主な原因です。

食道静脈瘤の破裂

肝硬変などの疾患によって食道の静脈が拡張し、これが破裂して出血するとタール便が現れることがあります。食道静脈瘤破裂は非常に危険な状態であり、緊急の対応が必要です。

胃がんや食道がん

消化管のがんからの出血もタール便を引き起こすことがあります。これらのがんは、出血を伴うことがあり、消化管内で血液が消化されて便が黒くなります。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、長期間使用すると胃や十二指腸の粘膜に潰瘍を引き起こしやすくなります。これによって出血が発生し、黒い下痢の原因となることがあります。これらの薬剤には、イブプロフェンやアスピリンが含まれます。

感染症

感染症が原因で腸の炎症が起こり、黒い下痢が発生することもあります。特に細菌感染症や寄生虫感染によって腸内に炎症が生じ、粘膜が損傷して出血することがあります。この場合、血液が便に混じることで黒っぽい下痢となります。

大量の鉄分摂取や特定の薬剤

鉄剤の摂取やビスマスを含む薬(例:胃薬の一部)は、便を黒くすることがあります。これらの物質が腸内で酸化されると、便が黒く見えることがあります。ただし、これらの場合は通常、タール状ではなく、粘り気のない黒い便や黒い下痢が生じます。

アルコール性肝疾患

過剰なアルコール摂取が肝臓に負担をかけ、食道静脈瘤を引き起こすことがあります。これが破裂すると、急激な消化管出血を伴い、黒い下痢が発生することがあります。また、肝硬変が進行すると、消化管出血が起こりやすくなります。

メレナ(下部消化管出血による黒い便)

通常、黒い便は上部消化管からの出血に関連しますが、下部消化管であっても大量の出血があれば便が黒くなることがあります。この場合は急激な腸管の動きによって血液が消化される前に便と混ざるため、黒い下痢として排出されます。

その他の重篤な疾患

クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)は、腸内の出血や炎症を引き起こし、下痢とともに黒い便を引き起こすことがあります。

胃腸の腫瘍やポリープの出血も、黒い下痢を引き起こす原因となることがあります。

黒い下痢は、上部消化管からの出血や感染症、薬剤の影響など、多くの原因で引き起こされる可能性があります。特に消化管出血は命に関わることもあるため、黒い下痢が見られた場合は早急に医療機関を受診し、内視鏡検査などで原因を特定することが必要です。軽度の場合でも、他の症状(めまい、吐き気、貧血など)が伴う場合は、特に注意が必要です。

心配いらない黒い便(緊急ではない場合)

一部の食べ物や薬剤によっても、便が黒くなることがあります。たとえば、鉄剤やビスマス剤を摂取している場合、便が黒くなることがよくありますが、これは消化管出血ではありません。また、黒い食品(黒ゴマ、ブルーベリー、赤ワインなど)を大量に摂取した場合も、便が一時的に黒くなることがあります。

このような場合でも、異常を感じた場合や他の症状(めまい、貧血)が見られる場合は、念のため医師に相談することが推奨されます。

タール便の検査診断方法

タール便は、消化管上部からの出血を示す可能性が高い重大な症状です。その原因を特定し、適切に治療するためには、問診、血液検査、内視鏡検査などの一連の診断プロセスが必要です。特に内視鏡検査は、出血源の特定やその場での治療が可能であるため、最も重要な検査です。

タール便の原因を特定するためには、以下のような検査診断方法が用いられます。

問診

問診では、患者の症状について詳細に確認します。医師は以下のような質問を行い、タール便の発生状況や他の関連症状を把握します。

  • 便の色や量
    便がどれほど黒いか、また粘り気がどの程度かを確認します。
  • 便の頻度
    タール便が何度も繰り返されているか、一時的なものかを確認します。
  • その他の症状
    腹痛、吐き気、嘔吐、めまい、ふらつきなどが併発しているかどうかを確認します。これらの症状は消化管出血や貧血の可能性を示唆します。

問診によって、タール便の原因や出血の規模についてある程度の見当をつけ、次の検査につなげます。

血液検査

血液検査は、出血の影響や患者の全身状態を評価するために行われます。具体的には、次の項目が確認されます。

貧血の有無や程度
出血によって体内の赤血球数が減少し、ヘモグロビン値が低下しているかどうかを確認します。重度の貧血は急速な大量出血の兆候です。

炎症の有無
消化管の炎症や感染を示すCRP(C反応性蛋白)などの値も測定され、出血原因として潰瘍や炎症性疾患が疑われる場合の参考となります。

この血液検査により、出血の規模や患者の健康状態が把握され、次のステップでどのような治療が必要かを判断します。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、タール便の原因となる出血の正確な場所や原因を特定するために最も重要な検査です。この検査では、患者さんの食道、胃、十二指腸の内部をカメラで観察し、出血部位を直接確認します。

 

内視鏡検査の特徴

  • 食道、胃、十二指腸の詳細な観察: 出血がどの部位から起きているか、どの程度の出血かを確認します。
  • 出血の原因が胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、あるいは「がん」などである場合、直接確認ができます。
  • 疑わしい病変が見つかった場合、その組織を採取し、病理検査でがんやその他の疾患を確認することができます。
  • 内視鏡検査中に出血が確認された場合、その場で止血処置を行うことが可能です。
    たとえば、クリップで出血部を止めたり、薬剤を注入して止血を図ることがあります。

内視鏡検査は、出血の原因を直接確認しながら治療も同時に行えるため、非常に有効な診断手段です。

※ 具体的な治療法は以下で解説します。

その他の検査

タール便の原因を探るために、内視鏡検査以外にも必要に応じて以下の検査が行われます。

  • 直腸診
    医師が指を使って肛門や直腸付近の異常を確認する簡単な診察方法です。これにより、下部消化管からの出血の可能性を除外することができます。
  • CT検査
    腹部の広範な観察が可能で、内視鏡検査では確認できない部分の腫瘍や炎症、出血箇所の有無を確認できます。特に大規模な出血や腫瘍が疑われる場合に有効です。

検査前の注意点

検査前には、特定の注意点があります。たとえば、検査前の食事制限が求められる場合があります。特に内視鏡検査の前には、胃の内容物が少ない状態にしておく必要があり、前夜から絶食を指示されることが多いです。食べ物が胃に残っていると、視野が遮られたり、出血の正確な観察が困難になったりするためです。

タール便の治療方法

タール便は、上部消化管(食道、胃、十二指腸)からの出血によって引き起こされる重要な症状です。その治療は、出血の原因を正確に特定し、適切な対応を行うことが大切です。タール便が見られた場合、まず最優先されるのはその原因を特定することです。

内視鏡検査

タール便が確認された場合、最も重要な診断・治療手段は上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)です。内視鏡検査は、出血の原因となっている病変を直接観察することができ、必要に応じてその場で止血処置を行うことが可能です。

内視鏡検査では以下のような処置が行われることがあります。

  • クリッピング: 出血部位を小さなクリップで閉じることにより、止血を行います。
  • 薬剤注入: 出血箇所に薬剤を直接注入し、出血を抑えることができます。
  • 電気焼灼(しょうしゃく): 高温を利用して出血部位を焼き、止血する方法です。

このように、内視鏡検査は診断だけでなく、治療も同時に行えるため、タール便の治療において非常に効果的です。

薬物療法

出血の原因が特定された後、必要に応じて薬物療法が行われます。以下の薬剤が主に使用されます。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)
    胃酸の分泌を強力に抑え、潰瘍の治癒を促進します。これにより、潰瘍からの出血を抑えることが期待されます。
  • H2ブロッカー
    胃酸の分泌を減少させる効果がありますが、PPIほど強力ではありません。軽度の症例で使用されることがあります。
  • ピロリ菌の除菌薬
    ピロリ菌感染が原因で胃潰瘍や十二指腸潰瘍が発生している場合、除菌薬を使用してピロリ菌を除去し、潰瘍の再発を防ぎます。

これらの薬は、消化管の粘膜を保護し、出血の再発を防ぐために処方されます。

食事療法

タール便の治療や予防の一環として、食事療法も重要です。特に、消化管への負担を軽減するためには、次のような点に注意する必要があります。

  • 消化に良い食品を選ぶ
    柔らかく、消化しやすい食品(お粥、スープ、豆腐など)を積極的に摂取することが推奨されます。
  • 刺激物を避ける
    辛い食べ物やカフェイン、アルコールなどの刺激物は、消化管を刺激し、出血を悪化させる可能性があるため、避けるべきです。
  • 小分けに食べる
    一度に大量の食事を摂取すると消化管に負担がかかるため、少量の食事を複数回に分けて摂取することが推奨されます。

このような食事管理は、消化器の健康を保ち、出血を防ぐ上で効果的です。

生活習慣の改善

タール便の予防や再発防止には、生活習慣の改善も欠かせません。以下の点が推奨されます:

  • 適度な運動
    消化管の働きを促進し、全身の健康を維持するために、軽い運動(ウォーキングなど)を取り入れることが推奨されます。
  • ストレス管理
    ストレスは胃酸の分泌を増加させ、消化管の炎症を引き起こす可能性があるため、リラクゼーションやストレス発散の方法を取り入れることが重要です。
  • 禁煙・節酒
    喫煙や過度のアルコール摂取は、消化管の粘膜を刺激し、潰瘍や出血のリスクを高めるため、これらの習慣を避けることが推奨されます。

内視鏡検査を通じて出血箇所を確認し、薬物療法や生活習慣の改善を併せて行うことで、症状の治癒や再発防止が期待されます。タール便が見られた場合、速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが健康回復のための第一歩となります。

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こちらの記事の監修医師

鈴木 隆二

千葉柏駅前胃と大腸肛門の内視鏡・日帰り手術クリニック 健診プラザ鈴木 隆二 先生

私たちのクリニックは、最先端の内視鏡検査を最大の特長としております。この技術を用いて、皆様の健康を維持し、病気の予防を図ることが私たちの使命と考えております。

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